ナガの短く映画を語りたい

改まった解説や考察をするつもりはありません。とにかく適当に映画語りしていきます。

【ワンシーン批評】『ノーカントリー』:シガーの映画史上最恐の侵入手口(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガです。

 

 今回が2回目の投稿です。当方はライブドアブログの方で「ナガの映画の果てまで」というブログをメインブログとして運営しております。はてなブログの方でこの度始めた「ナガの短く映画を語りたい」というブログはそのサブブログという位置づけになっております。メインブログの方もご覧になっていただけるという方は以下のリンクからどうぞ。

 

www.club-typhoon.com

 

 さて当ブログでは毎回1つの映画の中からワンシーンのみを抽出してご紹介し、それについての短評を加えていきます。

 

 前回の記事でもお話した通りで、最初の10記事は自己紹介も兼ねて当ブログ管理人のオールタイムベスト映画トップ10からのご紹介となります。

 

 第2回目の作品は『ノーカントリー』になります。その年のアカデミー賞で作品賞や監督賞を含む4部門を獲得し、コーエン兄弟は監督として高い評価を獲得することとなりました。

 

作品情報

 

邦題:ノーカントリー
原題:No Country for Old Men
監督:ジョエル・コーエン
  :イーサン・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン
  :イーサン・コーエン
原作:コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
製作:スコット・ルーディン
  :ジョエル・コーエン

  :イーサン・コーエン
製作総指揮:ロバート・グラフ
     :マーク・ロイバル
出演者:トミー・リー・ジョーンズ
   :ハビエル・バルデム
   :ジョシュ・ブローリン
音楽:カーター・バーウェル
撮影:ロジャー・ディーキンス
編集:ロデリック・ジェインズ
製作会社:パラマウント・ヴァンテージ / ミラマックス
    :スコット・ルーディン・プロダクションズ
    :マイク・ゾス・プロダクションズ
配給:ミラマックス
  :パラマウント/ショウゲート
公開:2007年11月21日(アメリカ)
  :2008年3月15日(日本)
上映時間:122分
製作国:アメリカ合衆国
言語:英語

 

今回のワンシーン

モーテルの淡い光の中に1人佇む得体の知れない黒い影。人間の根源的な恐怖感をこれほどまでに煽ったワンシーンは他にないでしょう。

 

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(C)2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.

 

シーンの説明

 ベトナム戦争からの帰還兵であるモス(ジョシュ・ブローリン)はテキサス州西部の荒野で麻薬取引現場で起きた殺人に遭遇します。モスは取引に使われる予定だったとみられる大量の札束の入ったケースを発見し、それを持って逃亡します。しかしそのケースには発信機が忍び込まされており、それを頼りに最恐の殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)はモスの潜伏するモーテルへと迫るのでした。

 

批評:シガーの映画史上最恐の侵入手口

 

 映画がこの世界に数え切れないほど存在しているように、映画史を彩ってきた数々の魅力的なヴィランたちが存在しています。彼らは時に絶対的な悪として、時に必要悪として、時にヒーローに近似の存在として立ちはだかってきました。

 しかし数え切れないほどのヴィランの中で一際異彩を放つのが『ノーカントリー』に登場するアントン・シガーというヴィランでしょう。なぜ彼が映画史において特異なヴィランなのかというと、彼には悪役たる根拠が存在しないのです。

 ヒーロー映画におけるヴィランは必ず悪役たる所以や背景が描かれます。その他の作品でもそうです。なぜ悪を行使するのかという背景があるからこそ作品の中でヴィランが存在意義を獲得しうるわけですから当然ですよね。

 ただアントン・シガーという映画史上最恐のヴィランにはそういう類の背景が一切存在しません。ターゲットとなった人物を殺すという行動原理にだけ依拠し、本能的に行動するその得体の知れない不気味さは見る者を震え上がらせます。

 

 そんなシガーがモスの潜伏するモーテルに現れると、彼はガスボンベのようなものを携えて彼の部屋へと向かいます。これまで見たことの無い、武器かどうかも不確かであるがどうも武器らしいそのガスボンベに我々は全思考回路を働かせて使用用途を模索します。爆発させるのだろうか?はたまた鈍器のように用いるのだろうか?そして彼が逆側の手に携えている空気銃のようなものは一体何なのだろうか?

 その正体は家畜をと殺するために用いるエア・タンクの装置を使った家畜銃です。しかしそれが分かったところで、モスが潜伏していると思われるにはドアがあり内側から鍵がかかっています。一体どうやって侵入するのだろうか?一般的な悪役はここで勢いよくドアを蹴破って侵入しそうなものだ・・・なんて考えているとあっさりと予想を裏切られます。

 家畜銃の銃口がドアノブの鍵の部分に向けられた刹那、圧縮された空気が一気に銃口から吹き出し、音も無く鍵は破壊され、シガーは室内へと侵入します。

 

 シガーが映画史に刻まれる悪役となったのは、背景が描かれない根源的な悪とあまりにも予測不可能な行動によるところが大きいでしょう。

 映画史上最もサイレントで最も見栄えのしないドアの突破方法は、映画史上最も恐ろしい侵入手口として語り継がれることとなりました。

 

 この『ノーカントリー』でシガーを演じたハビエル・バルデムアカデミー賞助演男優賞を獲得したのは、当然だったという他ないでしょう。

 

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