ナガの短く映画を語りたい

改まった解説や考察をするつもりはありません。とにかく適当に映画語りしていきます。

【ワンシーン批評】『ライフアクアティック』:ウェスアンダーソンと家族(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガです。

 

 今回も引き続き私のオールタイムベスト映画トップ10から1作品をピックアップして批評していこうと思います。当ブログでは基本的に1つの映画から1つのシーンを選んで、そのシーンについての短評を加えていくというスタイルをとっています。

 

 今回ご紹介する作品はウェス・アンダーソン監督の『ライフアクアティック』です。もうすぐ彼の新作『犬ヶ島』も公開になるわけですが、彼の作品の中でも今回紹介する作品が特に大好きです。彼の家族観のようなものが色濃く反映された本作の魅力を少しでも伝えられたらと思っております。

 

作品情報

 

邦題 :ライフ・アクアティック
原題 :The Life Aquatic with Steve Zissou
監督 :ウェス・アンダーソン
脚本 :ウェス・アンダーソン/ノア・バームバック
製作 :ウェス・アンダーソン/バリー・メンデル/スコット・ルーディン
製作総指揮:ラッド・シモンズ
出演者:ビル・マーレイ/オーウェン・ウィルソン
音楽 :マーク・マザーズボー
撮影 :ロバート・D・イェーマン
編集 :デヴィッド・モリッツ/ダニエル・R・パジェット
配給 :タッチストーン・ピクチャーズ/ブエナビスタ
公開 :アメリカ:2004年12月25日
   :日本:2005年5月7日
上映時間:118分
製作国:アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 :英語

 

今回のワンシーン

 

「人生は海だ。」という名キャッチコピーが本作にはつけられているが、もっと言うなればウェスアンダーソン監督の考える家族や愛も海のように広く包み込むような形状をしている。常に作品において家族とりわけ血縁関係を超えた「家族」と向き合い続けている彼の家族観がこの上なく発揮された作品でありシーンとも言えるだろう。

 

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批評:ウェスアンダーソンと家族

 

 ウェスアンダーソン監督の作品を語るに際して、避けては通れないのが「家族」とりわけ血縁関係を超えた「家族」の繋がりです。そのテーマ性は『グランドブタペストホテル』ないし最新作である『犬ヶ島』にも通底していると思われます。

 

 まず彼の「家族」の描き方の特徴として3つの特徴があると考えています。

 

①血縁関係を重視しないこと

②エモーショナルにというよりはドライな視点で描かれること

③キャラクターの「個」が強いこと

 

 この「家族」の描き方って極めて「アメリカ」的なんですよ。日本の家族において重視されるのが血縁関係であり親子の関係である一方で、アメリカの家族において重視されるのは夫婦という個人なんですね。つまり結婚というのは、夫婦個人同士の契約であり、離婚もまた個人の選択でしかないという考え方なんです。アメリカで離婚率が高いのはこういう背景があるわけです。

 「ライフアクアティック」という作品で見てみると、そんなアメリカ的な家族観が多く見て取れます。夫のズィスーと完全別居状態の妻。そしてズィスーの元に転がり込んでくる血縁関係があるかもしれないという謎の青年。「個」が強いズィスーの船のクルーたち。

 ただウェスアンダーソン監督はこういったアメリカ的な家族観を作品の表象に据えながら、それでいてそんな家族の在り方へのアンチテーゼを強く意識させる作品を世に送り出しています。

 ウェスアンダーソン監督は作品の中で常に「家族」の崩壊を一度は扱います。ではアメリカの家族が崩壊した時に一番憂き目にあうのは誰なのかというとそれは子供なんです。日本では(近年その傾向が減退しつつあるが)家族の離婚を子供の存在が踏みとどまらせるというケースも多いが、夫婦の個人主義が家族の軸であるアメリカでは、それは考えにくいです。

 つまりウェスアンダーソン監督が血縁関係を重視しない家族を描くのも、「個」が強い家族構成員を多く登場させるのも、「家族」をドライな視点で捉えているのも全てこれはアメリカの伝統的な家族観に立脚した描写なんです。

 

 しかし今回チョイスした映画「ライフアクアティック」ではあくまで監督の主眼はズィスーを親とする親子関係にあるんです。ズィスーとネッド(オーウェンウィルソン)の関係性が作品の主軸にあり、その関係性の構築と崩壊、再生を通して監督はアメリカの家族において軽視される子供の存在を強調しようとしているのです。

 今回「ライフアクアティック」から抽出したワンシーンはそんな映画のラストシーンに当たります。本作に登場する映画祭の描写がイタリア映画『家族の肖像』を強く想起させる点も面白いのですが、デヴィッド・ボウイの「Queen Bitch」が流れながらズィスーが小さな子供を背負って歩いていくという映像が何ともシュールです。

 ただこのシーンをラストに据えるのが何ともウェスアンダーソン監督らしいです。家族における子供の重要性や血縁関係や生と死の境界をも超えたまさに海のような家族観、そしてこれからも脈々と続いていく家族の営みなどを意識させてくれます。

 最新作『犬ヶ島』が公開された際にはぜひ彼の描く「家族」に注目して見てください。そして「ライフアクアティック」が気になったという方はぜひチェックして見て欲しいです。

 

 最後になりますが、ワンシーン批評と言いながらもう1シーンだけ引用させていただくルール違反をお許しください。ネタバレになるので詳しくは伏せますが、もし作品をこれからご覧になる方は、エンドロールのこのシーンで船の上にいる人物に注目しておいてほしいんです。この意味に気がつくと、涙が止まらなくなること必至です。

 

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今回も読んでくださった方ありがとうございました。

 

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