【ワンシーン批評】『風立ちぬ』:創作の地獄。そこから再び飛び立つということ。(ネタバレなし)
はじめに
みなさんこんにちは。ナガです。
今回はですね映画『風立ちぬ』についてお話してみようと思います。皆さんは数あるジブリ映画でどの作品が好きですか?私は『紅の豚』『レッドタートル』そして今回取り上げる『風立ちぬ』をTOP3に挙げると思います。
特に今回紹介する『風立ちぬ』に関してはダントツでナンバー1です。多分この映画だけ他のジブリ作品とは見た回数の桁が1つ違います。それくらいに大好きですね。もちろん主人公とヒロインの切ない物語に涙してしまうというのもありますが、それ以上に本作ってクリエイターの悲哀を描いた映画だと思うんですよ。
本作『風立ちぬ』はみなさんご存知だとは思いますが、零戦の設計の功労者である堀越二郎の半生を脚色を交えつつ描いた作品となっています。
作品情報
邦題:風立ちぬ
英題:The Wind Rises
監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿
原作:宮崎駿/堀辰雄
製作:鈴木敏夫
出演者:庵野秀明/瀧本美織
主題歌:荒井由実「ひこうき雲」
撮影:奥井敦
編集:瀬山武司
制作会社:スタジオジブリ
配給:東宝
公開:2013年7月20日
上映時間:126分
製作国:日本
言語:日本語
今回のワンシーン
創作者は常に新しいものを生み出し続けなければならない。
苦労して苦労して生みだした作品が空を舞う。
はた気がつくと自分の周りには何も残っておらず、ただ創作物の屍が横たわるのみ。
それでも創作の魅力に憑りつかれた者はその刹那的な快楽のためにあらゆる苦しみを受け入れ、創作の地獄にて生きるのだ。
生きねば。作らねば。
批評:創作の地獄。そこから再び飛び立つということ。
こんなの泣かない人いるんですかね・・・。もう幾度となく見た作品ですが、何回見てもこのシーンで絶対に涙腺が崩壊してしまいます。
自分が設計した零戦。戦争が終わり零戦が日本に帰ってくることは無かったのです。そして彼は地獄へと迷い込みます。それは創作者の地獄です。自分が人生を懸けて作り上げた創作物の屍が横たわり、自分には何も残されていない、ただ苦しみと絶望だけが残されています。
堀越二郎がこのような生涯を送ったのではないかという想像が付与されて脚色された本作ですが、このシーンに関しては間違いなく宮崎駿監督自身が強く投影されていると思うんです。
長きにわたって日本を代表するアニメ映画監督、世界でも注目されるアニメ界のトップランカーの1人として活躍し続けてきた宮崎駿監督。そんな彼が望むアニメを作るために一体どれだけのものを犠牲にしてきたのか、日本アニメの第1人者としてどれほどの重圧と苦しみを背負ってきたのか、これは誰にも知り様がありません。しかしそれが常人であれば耐えられないものであることは容易に想像がつきます。これまでのアニメ監督人生で幾度となくこの創作の地獄に迷い込んでは、絶望し、クリエイターとしての死(引退)を考えていたのでしょう。
それでも作らなければ得られない何かがある。苦しみと絶望の中で自分を駆り立てるのは、自分の創り上げたものが空を飛ぶ姿を見る時の一瞬の快楽です。例え一瞬であろうとクリエイターは誰しもあの瞬間のために生きようとする生き物です。堀越二郎もそうだったのかもしれません。
何度この地獄に足を踏み入れようと、また空を見て、そこに自分の創り上げたものが風に乗り優雅に飛行する姿を思い浮かべます。
生きねば・・・。作らねば・・・。
宮崎駿監督が自身最後の作品と公言してこの作品を製作した意味を考えると、もう泣けないはずがない。そしてこの映画を見た時にもう分かっていました。彼がアニメ監督を引退などできないことを。
彼は作らねば生きていけない。生きるために作るしかない人種なのでしょう。
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