【ワンシーン批評】『グランドブタペストホテル』:ウェスアンダーソンとシンメトリー(ネタバレなし)
はじめに
みなさんこんにちは。ナガです。
今回はいよいよ最新作公開が間近に迫ったウェスアンダーソン監督の作品を楽しむ上で、大切な映像的な視点からのお話をしてみようと思います。
いやはやもう待ちきれないんです。映画『犬ヶ島』の公開がですよ。何を隠そう私はウェスアンダーソン監督の作品を自分のオールタイムベストTOP10の中に入れています。『ライフアクアティック』という作品なんですが、良かったら単体の記事を書いてあるので読んでみてください。
この記事ではウェスアンダーソン監督の作品に通底する「家族」の視点についても書いておりますので、最新作『犬ヶ島』を見るうえで役に立つ前情報だと思います。
本記事では『グランドブタペストホテル』のワンシーンを取り上げて、彼の特徴的な映像技法についてお話していきます。
作品情報
邦題:グランド・ブダペスト・ホテル
原題:The Grand Budapest Hotel
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン/ヒューゴ・ギネス
製作:ウェス・アンダーソン/スコット・ルーディン
出演者:レイフ・ファインズ/F・マーリー・エイブラハム
音楽:アレクサンドル・デスプラ
撮影:ロバート・D・イェーマン
編集:バーニー・ピリング
製作会社:American Empirical Pictures
配給:フォックス・サーチライト
公開:2014年2月6日
上映時間:100分
製作国:ドイツ/アメリカ合衆国
言語:英語
今回のワンシーン
ウェスアンダーソン監督とシンメトリーの映像は切っても切り離せない関係だ。
映画の教科書の真逆を行くこの映像が多くの人を虜にしたのだ。
閉塞的で整頓された几帳面な映像は独特の視覚的快感を与えてくれる。
映画『グランドブタペストホテル』より引用
批評:ウェスアンダーソンとシンメトリー
映画のセオリーにおいてはできるだけ自然な映像を撮ることで視覚的なダイナミズムを生み出すことが大切と言われています。そのため基本的に整いすぎている画作りは映画向きとは言えないんです。
ただウェスアンダーソン監督はあえてこの映画向きではないシンメトリーの映像を自分の代名詞にしているんですよね。
実は映画界の巨匠にこのシンメトリーの映像を多用していた方がいるんですね。それが皆さんご存知スタンリーキューブリック監督です。特に『2001年宇宙の旅』を見てみると、シンメトリーの映像がしばしば登場しますよね。
映画『2001年宇宙の旅』より引用
左右対称って現実世界ではしばしば目にしますよね。ロゴや建物なんかはシンメトリーのものが多いですよね。特に西洋建築は基本的に左右対称を理想とし、それを追求した痕跡が見られますよね。ベルサイユ宮殿のような著名な建築もシンメトリーな作りになっています。
左右対称なものって基本的に安定感があって、整っていて誠実そうな印象を与えるんですよね。企業のロゴに左右対称なものが多いのも信頼できたり、誠実そうな印象を与えるからなんです。ただこれを映画に持ち込んでしまうと作品が小さくまとまってしまいます。空間的な広がりが排除されてしまうのが非常に大きいです。
ただウェスアンダーソン監督はそのシンメトリーの閉塞感を逆手に取っていますよね。彼の作品って基本的に人物も建物も、物体も全てミニチュアのように見えるんです。このおもちゃ箱の中身を覗いているような不思議な視覚的快感が癖になります。またそのミニチュアのような映像が彼の描く物語のコミカルさにも非常にマッチしています。
加えてシンメトリーの映像というのはすごく整理されていると先ほどから述べてきましたが、これによって物語や監督の伝えたいメッセージが先鋭化されてダイレクトに伝わってくるんですよね。映像の余計なノイズが少ないとでも言いましょうか。
ウェスアンダーソン監督の映像はやはりコアな人気があります。その秘密というのはこのシンメトリーの画面構成にあります。ぜひとも『犬ヶ島』でもこの画面のマジックに注目してほしいですし、過去作を見返すことがあれば、ぜひぜひ意識的に見て欲しいです。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
商品リンク
・『グランドブタペストホテル』
・『2001年宇宙の旅』