ナガの短く映画を語りたい

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【ワンシーン批評】『ONCE ダブリンの街角で』:伝説の掃除機デートに隠された深い意味?(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガです。

 

 今回はですねジョン・カーニー監督の名作『ONCE ダブリンの街角で』についてお話してみましょうか。

 『シングストリート』や『はじまりのうた』が有名なジョンカーニー監督ですがそんな作品たちよりも前に彼が制作したのがこの映画です。比べてしまうと地味な映画ではあるのですが、音楽を信じながらもどこかで信じていない彼の音楽観が絶妙に反映された作品とも言えます。

 

 ダブリンの街で偶然に出会った2人。偶然のセッション。偶然の逢瀬。必然の・・・。ほろ苦くも甘美な人生の「ONCE」をジョンカーニーが美しいメロディで彩ります。

 

Take this sinking boat and point it home
We've still got time
Raise your hopeful voice you have a choice
You'll make it now

沈みそうなボートで家を目指そう

私たちにはまだ時間があるから

君の選択へ 希望に満ちた声を上げよう

君なら今にきっとたどりつけるだろう

 

 いつか沈むことが分かっていた恋。それでも君と一緒にいたいと思ってしまったのです。しかしいつしか君は去っていく。そんな君に希望の歌を歌う。

 出会った時から別れを予感させる本作の表題曲とも言える「Falling Slowly」は非常に切ない曲です。しかし2人が奏でるその歌は2人の未来への希望の唄声です。

 

作品情報

 

邦題:ONCE ダブリンの街角で
原題:Once
監督:ジョン・カーニー
脚本:ジョン・カーニー
製作:マルティナ・ニーランド
製作総指揮:デヴィッド・コリンズ
出演者:グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ
撮影:ティム・フレミング
編集:ポール・ミューレン
製作会社:サミット・エンターテインメント
配給:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
公開:2007年3月22日
上映時間:87分
製作国:アイルランド
言語:英語

 

今回のワンシーン

 

音楽は同質でかつ均質な音の集合体ではない

異質な音が混ざり合うことで初めて完成する

つまり不協和音が集まることで和音を生じさせているのだ

ジョンカーニーは常に男女の出会いのシーンにセッションを用いる

違う人生を生きてきた2人の不協和音が交錯するその刹那、物語が始まる

 

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映画『ONCEダブリンの街角で』より引用

 

批評:伝説の掃除機デートに隠された深い意味とは?

 

 ジョンカーニーのボーイミーツガールは特徴的です。常に全く異なる生き方をしてきた2人がセッションを介して心を通わせます。それは本作も『はじまりのうた』も『シングトリート』も同様です。

 そう考えた時に本作で有名な掃除機デートのシーンは極めて象徴的とも言えるのではないでしょうか?

 

 掃除機はまず単純に掃除をするための電化製品ですよね。つまり掃除機を持っている女は男の人生に降り積もった埃を吸い取ってくれる存在と考えることが出来ます。

 ただそれ以上に本作はジョンカーニー監督作品であり、音楽映画です。さすれば掃除機の持つ音に注意を向けるべきでしょう。

 

 掃除機というのは我々が普段から用いる電化製品の中でも特にノイズが大きいカテゴリに入ります。掃除機の吸引音と言うのは我々の日常生活におけるノイズであり不協和音なんです。

 つまり男の前に掃除機を持って現れた女は、彼にとっての不協和音を体現する存在です。しかし音楽を奏でるというのは、そんな異質な音を、ノイズを重ね合わせていく作業に他ならないわけです。ジョンカーニー監督がいつも異質な男女を「出会わせる」のもそのためです。

 

 男は自らの掃除機が故障し、それを修理屋に出しました。それにより彼の生活からはノイズが失われました。そんな時に女は掃除機を持って彼の元に現れ、ノイズをもたらすのです。

 2人が奏でるぎこちない音が少しずつ噛みあい、音楽を形成していきます。決して交わるはずの無い音が交わったその瞬間に発せられる束の間の和音は儚くも眩い。

 

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