ナガの短く映画を語りたい

改まった解説や考察をするつもりはありません。とにかく適当に映画語りしていきます。

【ワンシーン批評】『ゼアウィルビーブラッド』:私はお前のミルクシェイクを飲むのだ。(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガです。

 

 今回はですねいよいよ最新作『ファントムスレッド』の公開が間近に迫っているポールトーマスアンダーソン監督の作品について語っていこうと思います。既にこのブログでは『ザ・マスター』という作品について紹介しております。

 

bluemoon-city.hatenablog.com

 

 そして今回紹介する作品は彼の代表作とも言える『ゼアウィルビーブラッド』という作品です。アプトン・シンクレアの『石油!』という小説を原作にして作られた本作は彼の作品の中でも特に高い評価を獲得していますね。

 

 このタイミングでこの作品を紹介するのには、深い訳があります。というのも『ファントムスレッド』の主演を務めるのは本作でも主演を務めたダニエル・デイ=ルイスなんですね。これが1つ目の関連です。

 そしてもう1つ私は『ゼアウィルビーブラッド』と『ザマスター』そして『ファントムスレッド』の3作品を総称してポールトーマスアンダーソン支配3部作と呼びたいと思っております。この3作品は全て「支配」という言葉が1つの重大なテーマになっていますからね。

 

 さらに今回チョイスしたワンシーンも実は『ファントムスレッド』に非常に通じるところの多いシーンです。そのためここはぜひ1人でも多くの方に『ゼアウィルビーブラッド』を見て欲しいと思い、書いております。

 

作品情報

 

邦題:ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
原題:There Will Be Blood
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
原作:アプトン・シンクレア『石油!』
製作:ジョアン・セアラー/ポール・トーマス・アンダーソン/ダニエル・ルピ
製作総指揮:スコット・ルーディン/エリック・シュローサー
出演者:ダニエル・デイ=ルイス/ポール・ダノ
音楽:ジョニー・グリーンウッド
撮影:ロバート・エルスウィット
編集:ディラン・ティチェナー
製作会社:パラマウント・ヴァンテージ/ミラマックス
配給:ミラマックス/ディズニー
公開:2007年12月26日
上映時間:158分
製作国:アメリカ合衆国
言語:英語

 

今回のワンシーン

 

貧乏人は金持ちにたかる。

いつからかそんな認識が普遍のものとなりつつある。

しかし果たしてそれは本当なのだろうか?

深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだとはよく言ったものだ。

貧乏人が金持ちから甘い蜜を吸おうとする時、金持ちもまた貧乏人から蜜を吸い取るのだ。

 

f:id:bluemoon-city-118:20180521193739j:plain

 

批評:私はお前のミルクシェイクを飲むのだ。

 

 「アイ・ドリンク・ユア・ミルクシェイク」は、本作『ゼアウィルビーブラッド』を見ていなくとも映画ファンであれば、1度は聞いたことがあるのではないかというくらいに有名なセリフですよね。

 ただおそらくこのセリフがどんな意味で使われていたのかという話になると知らない人の方が大半なのではないでしょうか?ミルクシェイクというのは別に「精液」の隠語とかではありませんよ?(笑)

 

 裕福な人に小蝿のようにたかる貧乏人という構図は現実でも映画でもしばしば見る構図です。貧乏人はあの手この手を尽くして富を持つものからその財産をかすめ取ろうと試みます。つまり貧乏人は裕福な人間がたんまりと抱え込んでいるミルクシェイクを何とかして吸い取ろうとするんです。

 

 しかしそれでは物事を一方の側面からしか捉えられていません。視点を変えてみると、裕福な人間は貧乏人がわずかしか持っていないそのミルクシェイクを搾取しようとしているんですよ。

 「カイジ」に登場する地下の強制労働施設なんかを思い出していただくとイメージが湧きやすいでしょうか?裕福な人間は自分がたんまりとミルクシェイクを保有していたところで、自分のそれを飲もうとはせず、貧乏人が持っているなけなしのそれをその人が干からびて涸れるまで吸い取り続けるのです。

 

 主人公で石油王のダニエル・プレインヴューは宣教師のイーライに告げます。「お前は自分がたかる側だと自負していたのかもしれないが、それは全くの逆だ。搾取していたのは俺の方なのだ。」と。

 

 「俺はお前のミルクシェイクを飲むのだ。」

 

 欲望はどんな人の中にも確かに存在しています。それは経済的に満たされようが、満たされていまいが等しく内に秘められています。誰もが他人から甘いミルクシェイクを吸い取ろうとし、誰しもが気がつかない内に自分のミルクシェイクを吸い取られています。そんな血みどろのカオスが我々、人間の社会には広がっているのです。

 

商品リンク

 

【ワンシーン批評】『ウォールフラワー』:その一瞬だけキミは世界の中心に立つ(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガと申します。

 

 今回はですね映画『ワンダー 君は太陽』の公開が迫ってきたということでスティーヴン・チョボスキー監督の作品の中から非常に多くの支持を集めている『ウォールフラワー』を紹介しようと思います。

 

 この作品多分学生時代に10回以上見返しましたが、何度見ても心に突き刺さって、感情が抑えきれなくなる映画です。人と関わるってすごく難しいですし、怖いことです。特に大学生の時って誰とも関わろうとしなければ、関わることのないままで日常を送れてしまうんですよね。しかし、それでも1歩勇気を出して踏み出さなければ、得られない大切なものがあるんだと気づかせてくれたのは、思い出させてくれるのはいつもこの『ウォールフラワー』という映画だったような気がします。

 

 もちろん皆さんに見ていただきたい作品なのですが、今まさに学生だという方には特に見て欲しい映画ですね。やはり自分が映画の中の登場人物と近い年齢であればあるほど感じるものも大きいと思いますので。

 

作品情報

 

邦題:ウォールフラワー
原題:The Perks of Being a Wallflower
監督:スティーブン・チョボスキー
脚本:スティーブン・チョボスキー
原作:スティーブン・チョボスキー:『ウォールフラワー』
製作:ジョン・マルコヴィッチ
製作総指揮:スティーブン・チョボスキー/ジム・パワーズ
出演者:ローガン・ラーマン/エマ・ワトソン/エズラ・ミラー
音楽:マイケル・ブルック
撮影:アンドリュー・ダン
編集:ヤナ・ゴルスカヤ/メアリー・ジョー・マーキー
製作会社:Mr. Mudd
配給:サミット・エンターテインメント/ギャガ
公開:2012年9月21日
上映時間:103分
製作国:アメリカ合衆国
言語:英語

 

今回のワンシーン

 

青春映画では主人公が絵空事のようなキラキラとした輝きを放つ

それを見ていると我々もそんな青春を送れるんじゃないかと錯覚してしまう

しかし現実の自分は「壁に描かれた花」のような存在で誰にも顧みられない

それでも壁の中から1歩踏み出せば、不安と苦しみの中で何かを得られるはずだ。

世界の中心に立つ自分。たとえ一瞬でも世界はキミのために・・・。

 

f:id:bluemoon-city-118:20180520175131j:plain

(C)2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 

批評:その一瞬だけキミは世界の中心に立つ

 

 こんなに苦い青春映画があるだろうかというくらいに本作は全編にわたってそれぞれの登場人物の苦悩や絶望が吐露されます。孤独、友情、恋愛、夢、精神病、暴力・・・。輝かしい瞬間がありつつ作品の大半は思春期のキャラクターたちの等身大の苦しみに支配されているのです。

 

 主人公のチャーリーはまさに「壁に描かれた花」のような存在として学生生活を送っていました。唯一の友人が自殺してしまい、友人もおらず、それを得ようと前に進む決心もつかない彼は孤独な毎日を過ごしていたのです。そんな中で彼はサムとチャーリーという2人のかけがえのない友人に出会います。

 それがきっかけで彼は少しずつ人と関わりが持てるようになります。友人ができ、学校でも明るくなった彼はいつしか「壁に描かれた花」などではなくなります。それでも暗い影はどこまでも付き纏うのです。前に進もうとする彼に数々の障害が立ちはだかります。

 しかし彼はもう怯むことはありません。彼には1歩踏み出す勇気とかけがえのない友人がいます。彼は自分の人生を自らの意志で突き動かす強さをもう持っています。

 

 夜のハイウェイ。世界を闇が包んでいる。しかし彼の行く道は明るい。どんなに世界を絶望や苦しみが覆おうと、彼は自分の人生から逃げないでしょう。

 閉塞した日常を突き破るかのように、車の上に立ち夜風を全身に浴びるチャーリーはこの一瞬だけ世界は自分のものだと感じているのではないでしょうか。

 

 「壁に描かれた花」でしかなかった彼が、一瞬だけではありますが世界の中心に君臨しています。その閉塞した青春を打ち破る刹那的な解放感は彼にとっては永遠のような瞬間です。

 自分の人生を傍観するな、自分の人生は自分で生きろと言わんばかりの強いメッセージがこのワンシーンに集約されていると思いました

 

メインブログの映画『ワンダー君は太陽』記事

 

www.club-typhoon.com

 

商品リンク

 

ウォールフラワー(字幕版)

ウォールフラワー(字幕版)

 

 

【映画小噺】『サマーウォーズ』の夏希先輩で性の目覚めを経験した話

 

はじめに

 

みなさんこんにちは。ナガです。

 

今回はですね、いつものワンシーン批評ではありません。当ブログは基本的に映画について短く語るというスタンスで何でも語っていく所存です。それが常に真面目な批評とは限りませんよ。

 

メインブログの方をご覧になってくださっている方はご存知かと思いますが、私の得意分野の1つが下ネタを交えた内容なんですね。良かったらメインブログの方もよろしくお願いします。

 

ナガの映画の果てまで

 

さて今回取り扱う映画はみなさんご存知『サマーウォーズ』です。この作品が公開されたのは2009年です。その当時私はまだ中学生でした。これで年齢大体バレますね(笑)

 

中学生と言えばみなさんは何を思い浮かべますか??

 

はい。もちろん「性の目覚め」ですよね。

異論は認めません(笑)

 

多くの方が中学生の頃に「性の目覚め」を経験することは数々のデータが物語っています。そのきっかけとして多いのは、同級生の異性に偶然触れた時、親の○○○を目撃してしまった時など生々しいものもありますが、映画やアニメ、テレビや雑誌の影響と言われています。

 

映画『スターウォーズ』のレイア役のキャリーフィッシャーは当時多くの男子学生の「性の目覚め」を促したとも言われていますが、まさにその通りで映画やアニメに登場する異性に「性の目覚め」を覚える方は非常に多いと思います。

 

何を隠しましょう。私もその1人です。今回はそんな私の「性の目覚め」のきっかけとなった映画『サマーウォーズ』の夏希先輩についてお話ししていきましょう。

 

作品情報

 

邦題:サマーウォーズ
英題:SUMMER WARS
監督:細田守
脚本:奥寺佐渡
製作:高橋望/伊藤卓哉/渡辺隆史
製作総指揮:奥田誠治
出演者:神木隆之介/桜庭ななみ
音楽:松本晃彦
主題歌:山下達郎僕らの夏の夢
撮影:増元由紀大
編集:西山茂
制作会社:マッドハウス
製作会社:サマーウォーズ製作委員会
配給:ワーナー・ブラザース映画
公開:2009年8月1日
上映時間:115分
製作国:日本

 

小噺:なぜ、夏希先輩だったのだろうか?

 

世の中に星の数ほどある映画作品、アニメ作品の中でなぜこの作品のこのキャラクターに異性を感じたのか未だによく分かっていません。ただ間違いなく『サマーウォーズ』の夏希先輩は自分の「性の目覚め」に関わったキャラクターだと断言できます。今回は私が感じた彼女の魅力を3つに分けて書いてみましょうか。

 

①募集人員1名なの!

 

f:id:bluemoon-city-118:20180518181410p:image

映画サマーウォーズ』より引用

 

「1回1万円ねっ!」

 

そう言っているようにしか聞こえないくらいには汚れてしまった私。ただ映画本編でのセリフは「募集人員1名なの!」でしたね。

 

このセリフが当時の私をなぜ刺激したのかを考えてみました。

 

まず、憧れの先輩、歳上の美女が自分だけを必要としてくれているという事実が初心な男子学生心をくすぐりますよね。現実で女の子に頼られることなんて滅多になかったですから、やっぱり自分もあんな綺麗な女の子に頼られたいと思ってしまいました。

 

あと自分が今でも歳上の異性が好みなのは、彼女の影響が強いと思いました(笑)ちょっと強引にでも自分を引っ張ってくれる強い女性に憧れてるんですかね…。

 

②泣きながらの「手握ってて…」

 

f:id:bluemoon-city-118:20180518182032p:image

映画『サマーウォーズ』より引用

 

泣きながら「手握ってて…」はもうS○Xやん

 

私の敬愛する作家ドンデリーロは著者「堕ちていく男」の中でこう書きました。

 

それは昼であれ夜であれ、ベッドにいるときだけではなかった。セックスは初めのころ、至るところにあった。単語の中に、フレーズの中に、中途半端な身振りの中に、場所が移動したことを単純に仄めかすようなときに。彼女が本か雑誌を置き、2人のあいだに小さな間が生まれる。これがセックスだ。2人で通りを歩き、埃っぽいウィンドーに映る自分たちの姿を見る。階段の昇り降りもセックスだ。彼女が窓際を歩き、彼がすぐ後をついて来るときのこと。触れることもあり、触れないこともあり、手を軽く掠めたり、ぴったりとくっついてきたりする。彼が後ろから迫って来るのを感じる。・・・・(中略)・・・・電話を取るかスカートを脱ぐかはたいした問題ではなく、それを2人で見ているようなとき。借りた海辺の家もセックスだ。

(「堕ちてゆく男」ドン・デリーロより引用)

 

いややっぱり手を繋ぐって、もS○Xやん!

 

暴走はこの辺にしておきましょうか(笑)

 

とにかく映画『サマーウォーズ』屈指の名シーンで当時の私はエロい妄想をしていたと思います。だって自分が一番辛いときに慰めて欲しい人ってつまりは大切な人ってことじゃないですか。

つまりあの手を握るシーンって夏希先輩が健二に心を許した瞬間でしょ?

 

いややっぱり手をつry...

 

本作のキャッチコピーは「つながりこそがぼくらの武器」でしたからね。

 

いやそれもうセry...

 

③やっぱりあのキスシーンだ

 

f:id:bluemoon-city-118:20180518182837p:image

映画『サマーウォーズ』より引用

 

当時中学生の私にとって異性との関わりにおいて1番エロいことってキスでしたからね。日本の性教育のバカヤロー(笑)

 

だからこそ夏希先輩が最後に健二にキスをするシーンで完全に「性の目覚め」を感じたような気がします。

 

これまでそういうシーンを見たことがなかったわけではないですが、歳上の女性が自らキスをしてくれるというシチュエーションに憧れましたね。

 

また当時の自分は仮にこのシーンが口と口のキスシーンだったならそこまで印象に残らなかったと思います。ほっぺにチューという等身大な感じがすごくエロかった。今思うと何でもないシーンなのに、当時の自分には何とかして手に入れたいと思わされるキスでした。

 

というか当時の自分にとってキスは実質セry...

 

おわりに

 

下ネタ全開の下世話な記事ですみません。ここまで読んでくださった方ありがとうございます。

 

良かったら皆さんの「性の目覚め」になった映画やアニメ、ドラマのキャラクターやキャストなんかを教えていただけたらと思います。

 

商品リンク

 

サマーウォーズ

サマーウォーズ

 

【ワンシーン批評】『アバウトタイム』:映画を見ることの原初的な喜びを思い出させてくれる(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガです。

 

 今回はですね映画『アバウトタイム』についてお話していこうと思います。とりあえずこの映画のレイチェル・マクアダムスが可愛すぎるということに関して異論はないと思います。

 それはさておき本作は映画ファンの間でも非常に人気の高い作品ですね。私もBlu-rayを購入して何度も見返してきた作品です。

 

 この作品はタイトルの通りで時間をテーマにした作品です。今というかけがえのない時間を大切にして生きることの重要性を今一度思い出させてくれます。

 

 また映像的にも非常に美しいシーンがたくさんあります。特に結婚式当日に強い雨と風に襲われながらも、それをも楽しもうとする主人公の姿が目に焼き付いています。

 タイムスリップをする中で主人公が少しずつ「時間」の持つ意義に目覚めていく姿が緻密に描かれており、非常に共感的に見れる映画です。

 

 今回はそんな『アバウトタイム』からワンシーンを抽出して紹介してみようと思います。

 

作品情報

 

邦題:アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜
原題:About Time
監督:リチャード・カーティス
脚本:リチャード・カーティス
製作:ティム・ビーヴァン/エリック・フェルナー
出演者:ドーナル・グリーソン/レイチェル・マクアダムス
音楽:ニック・レアード=クロウズ
主題歌:『The Luckiest』ベン・フォールズ/『Into My Arms』ニック・ケイヴ『Lakehouse』オブ・モンスターズ・アンド・メン(予告編のみ)
撮影:ジョン・グレセリアン
編集:マーク・デイ
製作会社:ワーキング・タイトル・フィルムズ/レラティビティ・メディア
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ/Synca/パルコ
公開:2013年9月4日
上映時間:124分
製作国:イギリス/アメリカ合衆国
言語:英語

 

今回のワンシーン

 

何気ない日常を追体験することで日々の些細な機微を楽しむ。

本作の中で主人公が辿りつく1つの答えは映画の原初的な存在意義ではなかったか?

我々はリュミエール兄弟が映画というものを発明したころの純粋な喜びに立ち返る。

 

f:id:bluemoon-city-118:20180517235336j:plain

映画『アバウトタイム』より引用

 

批評:映画を見ることの原初的な喜びを思い出させてくれる

 

 リュミエール兄弟がシネマトグラフを開発した頃、映画は現実を超越したものと言うよりも、現実を追体験するものでした。自分が普段何気なく過ごしている日常の風景を客観的に見ることで、そこに隠された世界の機微に目を向け、それを楽しむというところに「映画の喜び」があったのです。

 本作『アバウトタイム』では主人公が日常をタイムスリップによって追体験することで一度目には気がつかなかった人生の美しさに目を向けることが大切だと感じるようになります。彼が気がついたその喜びとはまさに映画見ることそのものが持つ根源的な喜びではないですか。

 

 また私の敬愛するヴィム・ヴェンダース監督は映画において重要なのは「時間に対する誠実さ」であると説きました。元は画家だった彼が絵画に限界を感じ、映画に傾倒するようになったのは、映画の中には時間が存在するからであり、それこそが物語を生み出すために必要な最重要要素だと感じたからに他なりません。

 『アバウトタイム』は時間についての映画であることに間違いないのですが、それ以上に「アバウトフィルム」つまり映画についての映画なのです。

 

 今回取り上げたシーンは何気ない地下鉄の風景です。皆さんも仕事で疲れた身体をいたわりながら眠気と戦いながら毎日家を目指していることでしょう。そんな時にふと聞こえてくる誰かのイヤホンからの音漏れ。疲れている自分にとってはノイズなのかもしれません。

 しかしそれを俯瞰で見てみると、人生を楽しむヒントなのかもしれません。人生を楽しむヒントは日常の些細なところに転がっている。結局はそれに気がつくか、気がつかないかの差です。ただ我々はどうしてもそれに気がつきにくいのです。

 

 そんな時に世に現れ、我々に人生の楽しみ方を教えてくれたものこそが映画だったのではないでしょうか?『アバウトタイム』はそんな映画を見ることの喜びを思い出させてくれます。

 

商品リンク

 

 

【ワンシーン批評】『グランドブタペストホテル』:ウェスアンダーソンとシンメトリー(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガです。

 

 今回はいよいよ最新作公開が間近に迫ったウェスアンダーソン監督の作品を楽しむ上で、大切な映像的な視点からのお話をしてみようと思います。

 

 いやはやもう待ちきれないんです。映画『犬ヶ島』の公開がですよ。何を隠そう私はウェスアンダーソン監督の作品を自分のオールタイムベストTOP10の中に入れています。『ライフアクアティック』という作品なんですが、良かったら単体の記事を書いてあるので読んでみてください。

 

bluemoon-city.hatenablog.com

 

 この記事ではウェスアンダーソン監督の作品に通底する「家族」の視点についても書いておりますので、最新作『犬ヶ島』を見るうえで役に立つ前情報だと思います。

 本記事では『グランドブタペストホテル』のワンシーンを取り上げて、彼の特徴的な映像技法についてお話していきます。

 

作品情報

 

邦題:グランド・ブダペスト・ホテル
原題:The Grand Budapest Hotel
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン/ヒューゴ・ギネス
製作:ウェス・アンダーソン/スコット・ルーディン
出演者:レイフ・ファインズ/F・マーリー・エイブラハム
音楽:アレクサンドル・デスプラ
撮影:ロバート・D・イェーマン
編集:バーニー・ピリング
製作会社:American Empirical Pictures
配給:フォックス・サーチライト
公開:2014年2月6日
上映時間:100分
製作国:ドイツ/アメリカ合衆国
言語:英語

 

今回のワンシーン

 

ウェスアンダーソン監督とシンメトリーの映像は切っても切り離せない関係だ。

映画の教科書の真逆を行くこの映像が多くの人を虜にしたのだ。

閉塞的で整頓された几帳面な映像は独特の視覚的快感を与えてくれる。

 

f:id:bluemoon-city-118:20180516220101p:plain

映画『グランドブタペストホテル』より引用

 

批評:ウェスアンダーソンとシンメトリー

 

 映画のセオリーにおいてはできるだけ自然な映像を撮ることで視覚的なダイナミズムを生み出すことが大切と言われています。そのため基本的に整いすぎている画作りは映画向きとは言えないんです。

 ただウェスアンダーソン監督はあえてこの映画向きではないシンメトリーの映像を自分の代名詞にしているんですよね。

 

 実は映画界の巨匠にこのシンメトリーの映像を多用していた方がいるんですね。それが皆さんご存知スタンリーキューブリック監督です。特に『2001年宇宙の旅』を見てみると、シンメトリーの映像がしばしば登場しますよね。

 

f:id:bluemoon-city-118:20180516220036j:plain

映画『2001年宇宙の旅』より引用 

 

 左右対称って現実世界ではしばしば目にしますよね。ロゴや建物なんかはシンメトリーのものが多いですよね。特に西洋建築は基本的に左右対称を理想とし、それを追求した痕跡が見られますよね。ベルサイユ宮殿のような著名な建築もシンメトリーな作りになっています。

 左右対称なものって基本的に安定感があって、整っていて誠実そうな印象を与えるんですよね。企業のロゴに左右対称なものが多いのも信頼できたり、誠実そうな印象を与えるからなんです。ただこれを映画に持ち込んでしまうと作品が小さくまとまってしまいます。空間的な広がりが排除されてしまうのが非常に大きいです。

 

 ただウェスアンダーソン監督はそのシンメトリーの閉塞感を逆手に取っていますよね。彼の作品って基本的に人物も建物も、物体も全てミニチュアのように見えるんです。このおもちゃ箱の中身を覗いているような不思議な視覚的快感が癖になります。またそのミニチュアのような映像が彼の描く物語のコミカルさにも非常にマッチしています。

 

 加えてシンメトリーの映像というのはすごく整理されていると先ほどから述べてきましたが、これによって物語や監督の伝えたいメッセージが先鋭化されてダイレクトに伝わってくるんですよね。映像の余計なノイズが少ないとでも言いましょうか。

 ウェスアンダーソン監督の映像はやはりコアな人気があります。その秘密というのはこのシンメトリーの画面構成にあります。ぜひとも『犬ヶ島』でもこの画面のマジックに注目してほしいですし、過去作を見返すことがあれば、ぜひぜひ意識的に見て欲しいです。

 

 今回も読んでくださった方ありがとうございました。

 

商品リンク

・『グランドブタペストホテル』

グランド・ブダペスト・ホテル (字幕版)

グランド・ブダペスト・ホテル (字幕版)

 

 

・『2001年宇宙の旅』

2001年宇宙の旅 (字幕版)

2001年宇宙の旅 (字幕版)

 

 

【ワンシーン批評】『風立ちぬ』:創作の地獄。そこから再び飛び立つということ。(ネタバレなし)

 はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガです。

 

 今回はですね映画『風立ちぬ』についてお話してみようと思います。皆さんは数あるジブリ映画でどの作品が好きですか?私は『紅の豚』『レッドタートル』そして今回取り上げる『風立ちぬ』をTOP3に挙げると思います。

 

 特に今回紹介する『風立ちぬ』に関してはダントツでナンバー1です。多分この映画だけ他のジブリ作品とは見た回数の桁が1つ違います。それくらいに大好きですね。もちろん主人公とヒロインの切ない物語に涙してしまうというのもありますが、それ以上に本作ってクリエイターの悲哀を描いた映画だと思うんですよ。

 

 本作『風立ちぬ』はみなさんご存知だとは思いますが、零戦の設計の功労者である堀越二郎の半生を脚色を交えつつ描いた作品となっています。

 

作品情報

 

邦題:風立ちぬ
英題:The Wind Rises
監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿
原作:宮崎駿/堀辰雄
製作:鈴木敏夫
出演者:庵野秀明/瀧本美織
主題歌:荒井由実ひこうき雲
撮影:奥井敦
編集:瀬山武司
制作会社:スタジオジブリ
配給:東宝
公開:2013年7月20日
上映時間:126分
製作国:日本
言語:日本語

 

今回のワンシーン

 

創作者は常に新しいものを生み出し続けなければならない。

苦労して苦労して生みだした作品が空を舞う。

はた気がつくと自分の周りには何も残っておらず、ただ創作物の屍が横たわるのみ。

それでも創作の魅力に憑りつかれた者はその刹那的な快楽のためにあらゆる苦しみを受け入れ、創作の地獄にて生きるのだ。

生きねば。作らねば。

堀越二郎が歩んだ道。宮崎駿が選んだ道。

 

f:id:bluemoon-city-118:20180516202229p:plain

 

批評:創作の地獄。そこから再び飛び立つということ。

 

 こんなの泣かない人いるんですかね・・・。もう幾度となく見た作品ですが、何回見てもこのシーンで絶対に涙腺が崩壊してしまいます。

 自分が設計した零戦。戦争が終わり零戦が日本に帰ってくることは無かったのです。そして彼は地獄へと迷い込みます。それは創作者の地獄です。自分が人生を懸けて作り上げた創作物の屍が横たわり、自分には何も残されていない、ただ苦しみと絶望だけが残されています。

 

 堀越二郎がこのような生涯を送ったのではないかという想像が付与されて脚色された本作ですが、このシーンに関しては間違いなく宮崎駿監督自身が強く投影されていると思うんです。

 長きにわたって日本を代表するアニメ映画監督、世界でも注目されるアニメ界のトップランカーの1人として活躍し続けてきた宮崎駿監督。そんな彼が望むアニメを作るために一体どれだけのものを犠牲にしてきたのか、日本アニメの第1人者としてどれほどの重圧と苦しみを背負ってきたのか、これは誰にも知り様がありません。しかしそれが常人であれば耐えられないものであることは容易に想像がつきます。これまでのアニメ監督人生で幾度となくこの創作の地獄に迷い込んでは、絶望し、クリエイターとしての死(引退)を考えていたのでしょう。

 

 それでも作らなければ得られない何かがある。苦しみと絶望の中で自分を駆り立てるのは、自分の創り上げたものが空を飛ぶ姿を見る時の一瞬の快楽です。例え一瞬であろうとクリエイターは誰しもあの瞬間のために生きようとする生き物です。堀越二郎もそうだったのかもしれません。

 何度この地獄に足を踏み入れようと、また空を見て、そこに自分の創り上げたものが風に乗り優雅に飛行する姿を思い浮かべます。

 

 生きねば・・・。作らねば・・・。

 

 宮崎駿監督が自身最後の作品と公言してこの作品を製作した意味を考えると、もう泣けないはずがない。そしてこの映画を見た時にもう分かっていました。彼がアニメ監督を引退などできないことを。

 

 彼は作らねば生きていけない。生きるために作るしかない人種なのでしょう。

 

商品リンク

 

 

【ワンシーン批評】『Mommy(マミー)』:正方形の世界とグザヴィエ・ドランの魔法(ネタバレなし)

 

はじめに

 

 みなさんこんにちは。ナガと申します。

 

 今回はですね2014年公開で、日本では2015年に公開された新鋭のグザヴィエ・ドラン監督の『Mommy(マミー)』についてお話していこうと思います。

 

 映画『マイマザー』で世界に衝撃を与えて以降、数々のセンセーショナルな映画作品を世に送り出し続けているグザヴィエ・ドラン監督。昨年も日本で『たかが世界の終わり』という作品が公開され、大きな話題になりました。

 

 詩的で芸術的な映像と人間の内面を深く掘り下げる脚本が奇跡的な化学反応を起こし、見る者を虜にする彼の作品には数多くのファンが存在します。

 

 その中でも『Mommy(マミー)』という作品は特に大きな話題になりました。今回は本作からワンシーンを抽出して短評を加えていこうと思います。

 

作品情報

 

邦題:Mommy/マミー
原題:Mommy
監督:グザヴィエ・ドラン
脚本:グザヴィエ・ドラン
製作:グザヴィエ・ドラン/ナンシー・グラント
出演者:アンヌ・ドルヴァル/アントワーヌ・オリヴィエ・パイロン/スザンヌ・クレマン
公開:2014年9月19日
  :2015年4月25日(日本)
上映時間:138分
製作国:カナダ
言語:フランス語

 

今回のワンシーン

 

冒頭から映画の世界に閉塞感を付与する正方形の映像。

その閉塞感を自らの手で打ち破るスティーヴ。

彼の何かをこじ開けようとする動作と共に画面が拡張していく。

広がった世界はどこまでも青く、美しく、そして自由だ。

 

f:id:bluemoon-city-118:20180515195835p:plain

(C)2014 une filiale de Metafilms inc.

 

批評:正方形の世界とグザヴィエ・ドランの魔法

 

 主人公のスティーヴはADHDを抱えており施設に入居していましたが、建物に放火したことが原因で施設を追われてしまいます。そして始まる母親との2人暮らし。スティーヴの暴力的な行動の発作が母を悩ませます。そんな2人の暮らしを向かいの家に住むカイラも手伝うようになります。3人は互いに心を通わせ、少しずつ生きる希望を取り戻していきます。

 

 正方形の映像は画面中央に位置する登場人物以外の余計な情報を排除し、人物描写の純度を息が詰まるほどに高めます。その窮屈で、圧迫感のある映像は、本作における母と子の愛らしくも憎らしい微妙な距離感の親子の関係性をこの上なく強調してくれます。しかしあまりにも閉塞感の強い映像は見る者を窒息させます。もう息が出来ないんですね。

 ただ作品の中盤に今回のワンシーンが訪れます。主人公のスティーヴが自らの手で正方形の画面をこじ開け、世界を拡張させていくのです。突如広がった世界、美しい景色と差し込む陽光に我々は深く息を吸い込みます。しかしこの後の展開を考えるとやはりこのシーンは切ないです。彼が世界を解放し、決断したのはあまりにも重く、苦しい「愛」ゆえの選択でしたから。

 

 またこのシーンで劇伴音楽として採用されたOasisのWanderwallがまた切ないです。

 

I said maybe you're gonna be the one that saves me
And after all, you're my wonderwall
I said maybe (I said maybe) you're gonna be the one that saves me
And after all, you're my wonderwall

Oasis:Wonderwall)

 

 この楽曲は「君は自分を守ってくれる魔法の壁なんだ。」という大切な人に捧げられた歌なんですよね。おそらく主人公のスティーヴにとっての「魔法の壁」というのは母ダイアンのことだったんだと思います。

 彼がADHDに苦しみ、放火したことで背負うことになった責任をも彼女は背負い込んでしまおうとしてくれました。しかし彼は薄々感じていたのでしょう。いつまでもそんな「魔法の壁」に頼ることが出来ないということにです。

 

 グザヴィエ・ドランが描く物語は「愛」に満ちています。しかし「愛」だけじゃないのです。苦しみ、憎しみ、悲しみ・・・いろいろな感情が渦巻いています。それでも確かに「愛」が宿っています。

 少年は「愛」故に「魔法の壁」を取り去り、自らの意志でもって決断するのです。

 

 このシーンだけはやはり何度見ても泣いてしまいますね。

 

商品リンク